連載 第 12 回 ・ 2019.08.21
和牛ギフトで新旋風 滋賀の精肉店が EC で信頼される理由
滋賀県の精肉店サカエヤは、地元密着の一般的な肉屋だった。新保吉伸代表は 2001 年、BSE が猛威を振るった際に殺される牛や苦境に立たされる牧場主を見て、国内の牛肉流通機構を改善する必要があると考えた。
滋賀県内の数軒の農家に 「繁殖肥育一貫農業」 を提案。賛同した農家の牛は全部買い取るという大きな決断をした。苦労の末、「血統」「出産」「肥育」「精肉」のすべての段階で安全・安心を保証する 牛肉を安定供給できる体制を実現。農林水産省の「フード・アクション・ニッポンアワード 2010」のプロダクト部門優秀賞を受賞。
「ブランド牛通販」だけでは足りない
2003 年ごろ開設したネットショップ「近江牛.com」は売り上げ好調だったが、約 10 年がたったころ限界を迎えた。近江牛のネットショップが乱立し、安全性に関心の薄い一般家庭にとって、サカエヤが売りの肉の品質は「選ばれる理由」としては不十分だった。
新保代表の相談を受けた筆者は、検索エンジンマーケティングの分析手法で購入者を分析。すると 「牛肉 贈答」「牛肉 お中元」 などのキーワードでサイトを訪問する人は数が少ないものの、購入の見込みが他のキーワードより数倍高いことが分かった。
贈答用の牛肉に求められることとは
競合サイトとの定性的な比較で分かったのは、「贈答に最適な牛肉が市場にない」という事実だった。当時のブランド牛は、桐箱か段ボール箱にブランド名や店名を刻印しただけのそっけないものが一般的。牛肉は生もので、和菓子のようにそのまま箱ごと食卓に置かれることも少ないため、シンプルなパッケージで十分だと考えられていた。
松阪牛や神戸牛と比べて知名度が劣る近江牛で、ギフトとして受け取った人が喜ぶ信頼感や高級感をパッケージで伝えられないか。さらに、これまで差異化要因になり得なかった 安全・安心も、贈答用パッケージとセットでアピールすれば「選ばれる理由」となり得る。
贈答用パッケージを開発、BtoB が 6 割増
新保代表は、ネットショップ店長と共に見事なパッケージを開発した。ウェブサイトのリニューアルでは、この新パッケージを前面に押し出した。サイトの構造設計でも贈答パッケージをオプションとせず、肉と合わせて一つの商品として扱うことで、自宅用と贈答用は全く別の商品とし、訴求力を高めた。
リニューアルを機に、従来の霜降り肉から赤身や熟成肉を中心とした販売へと切り替えた。経産牛など安値で取引されていた牛肉を熟成させればおいしくなり、結果として廃棄を減らせる 「エシカル」な流通。ネットショップの売り上げは大きく伸びると同時に、BtoB 取引が 6 割も増えた。新保代表の牛肉熟成の手法も話題となり、最近はテレビ出演や書籍の執筆などで引っ張りだこである。