らしさを伝えるユニフォーム
AB3C事例 チームワークアパレル
飲食店ユニフォームの新しい価値を提案
(株)ユニワークの運営するネットショップ、チームワークアパレルはサービス開発によって物販からサービス価値の提供へイノベーションを果たした典型的な事例だ。その成功のポイントは、目に見えない価値の発見をきっかけに、事業を大胆に絞り込んだことだ。
競争激化とGoogleからのエラー通知で泣きっ面に蜂
(株)ユニワーク(京都府福知山市 代表 細見健介)は創業30年のユニフォーム卸、小売業だ。学生服、作業服、イベントユニフォーム、飲食店ユニフォームなど、ユニフォームを幅広く販売している。2003年から細見雅也さんがネットショップ「制服道場」を立ち上げた。参入が早かったため、Google検索でも「飲食店ユニフォーム」や「イベントユニフォーム」などのキーワードで上位表示され、売上は順調に成長。2010年には売り上げの半分がネットショップ経由となった。このときのAB3Cは以下の通りだ。
しかし、その後同じようなユニフォームのネットショップが増え続けた。もともとカタログ通販が主流であったユニフォームはネット通販にもなじみやすい環境が整っていたのだ。
競争激化に伴い、検索順位は概ね2ページ目以降に下落。サイトへの集客数は減っていった。そこで導入したのがリスティング広告だ。最初のころこそインパクトがあったが、徐々に反応は落ち、逆に広告費は増すばかりで、最終的には売上の15%を超えるまで増えていった。コスト増により、通常月でも収支は赤字になった。
象徴性という価値の発見
一見すると問題は集客力不足にも見えるが、実際はリスティング広告の広告費高騰も、SEOの順位下落も、根本には差別化できていないという点に課題がある。戦略の問題だ。つまり、いまのままSEOによって検索順位を上げたところで、収益は上がらない見込みが高い。そこで、まずは思い切って広告をすべて停止した。売り上げは30%減ったが、利益は大きく増え、黒字になった。
しかし、このまま放置すれば新規流入も減り、赤字になるのは見えている。それまでの間に価値の見直し、商品、サービス開発が必要だ。可能性を求めて、ユニフォームに求められる価値を分析した。その結果、ユニフォームには3つの価値があることを知った。機能性、審美性、象徴性だ(出典:公益財団法人日本ユニフォームセンター)。機能性とは、動きやすさや防寒性、防汚性などを指す。審美性は見た目に美しいとか、好ましい印象を指す。象徴性とは、その企業ブランドを象徴しているか、マネージャーや専門家といった、組織の中でも個人的な役割分担を象徴しているか、という性能だ。
これら3つの価値に着目しながら、業種別やアイテム別に価値分析を進めたところ、業種別に重視する価値のバランスが異なることが見えてきた。作業服は機能性に重きを置き、飲食店などの接客に使われるサービスユニフォームは相対的に審美性、象徴性を重視する。しかしながら、これまでユニワークが扱ってきた、カタログ通販中心のユニフォームは、作業服もサービスユニフォームも同じように既製品にロゴマークや社名を入れる程度で、個性を伝える象徴性については力を入れていない。これでは、統一感は得られるが、個性は得られない。これは大量に売ることを重視し、個別のカスタマイズに力を入れようとしなかった業界の慣行による結果だろう。サービスユニフォームを求める消費者にとっては、価値が足りない、と認識されている可能性がある。実際に、飲食店のお客様へのインタビューの中で、「カタログを見ても、どれを選んでよいかわからない」、「いずれを選んでも同じに見えて、他のお店と似たような印象にしかならない」という意見をいただいた。ここに商機があると考えた。
業界の流れを見ても、セレクトショップやアパレルブランドが大手企業に向けてユニフォームのデザインを一から手掛ける例が増えていた。競争の時代だからこそ、一層ブランド力を高め、顧客から選ばれよう、という動きだ。また、人手不足が叫ばれる昨今、人材獲得の面でも、ブランドが重要になっており、ユニフォームはそのブランド表現の一つとして注目されている。
そう考えると、ブランディングのために、オリジナルのユニフォームを作り、自社のブランドを伝えていこう、という考え方は、マクロ環境の変化にのっとっている。どうやらこの流れに乗れば、成長の波に乗れそうだ。そこで、ユニワークは、ユニフォームによって象徴性を高め、ブランディングやチームビルディングに寄与することを自社の価値と定義し、思い切って飲食店向け専門のユニフォーム通販サイトを立ち上げることとした。名付けて、「チームワークアパレル」だ。
手間のかかるサービスが差別化を生む
そのお店らしさをユニフォームで表現するということは、何らかのカスタマイズが必要になるということだ。そこで、象徴性を高められる様々なカスタマイズサービスの開発を検討した。一着数千円から一万円程度のユニフォームに対して、カスタマイズは、一か所あたり数百円から数千円の費用がかかる。場合によっては、ユニフォームのベースアイテムの価格よりもカスタマイズ費用のほうが高くなる可能性もある。象徴性表現によるブランド強化の効果を考えると、カスタマイズの価値は十分にあると思われるが、それでも価格は安いほうが良い。極力手間をかけず、象徴性を高める方法として考えたのが、従来からあり、他社も行っているロゴの反映と、新たに加えたロゴカラーの反映だ。ロゴカラーの反映とは、たとえば、ポケットや紐など、ユニフォームの一部を取り外して、ロゴカラーのものと差し替える、という加工だ。
ロゴの反映は一般的だが、ロゴカラーの反映は他社ではなかなか対応していない。加工はやり始めるときりがないが、色の反映に絞ればやれる筋が見えてきた。
しかし、実際に提案してみると、ロゴマークさえない企業が多く、ロゴを決定するためのコンセプト作りに手間がかかることが分かった。そこで、初期のターゲットは、「すでにロゴマークがある企業」とした。それであれば、すでにデザイン会社との付き合いがある可能性も高く、ロゴカラーの反映をする上でもデザイン会社の協力を得られる可能性が高いと考えた。
サンプルユニフォームとして、マルチカラーのロゴをプリント。
マルチカラーのベルトやパイピング加工を施した。
白いワイシャツのポケットをコーポレートカラーの紺色に付け替え、個性と統一感を表現。
AB3Cで整理すると、ターゲットを飲食店経営者に絞ることで、そのベネフィットとして自分たちの個性の表現が大きな比重を占めることが分かった。それであれば、自社でロゴカラーを反映させるカスタマイズができるようにすることで、より個性を伝えられる。絞り込みによって、価値を発見した好例だ。
ユニフォームは求人に効く?
さらに、象徴性の強化は思わぬ価値も生んだ。飲食店へのインタビューの中で、何度も出てきたキーワードが「採用難」だった。そんな折、求人広告ではユニフォームを着用した写真を掲載すると効果が高い、と言われていることを知った。そこで、その裏を取るために、アンケート調査を実施したところ、たしかに求人広告に集合写真を使うこと、さらには個性を感じられるユニフォームを着ているほうが望ましい、という結果が得られた。求人シーンにおいて、より個性の伝わるユニフォームを着用した写真を掲載することで、求人応募が増える。それなら、求人広告を2回出すよりも、個性の伝わるユニフォームを購入したうえで、求人広告を1回出す方が費用対効果は良いかもしれない。「広告を2回出すより、ユニフォームを作り直して1回出したほうがお得である」というメッセージだ。
求人シーンのAB3Cを見てみよう。飲食店の店長は、お店の個性にあったアルバイトを雇いたい。このとき、広告を出すのであれば、個性的なユニフォームを着用し、写真を掲載したほうが応募者は増え、さらにユニフォームとしての実用性も残る。いいことだらけだ。
発想を転換!ユニフォームの個性強化から、個性的な衣料品のユニフォーム化へ
これまで、株式会社ユニワークが運営するネットショップ、チームワークアパレルの象徴性を表現する加工サービスをご紹介した。ポケットの付け替えや、エプロンの紐など、既製品のユニフォームの一部を、お店のロゴカラーのものに取り換えることで、低コストでお店の個性を表現することが可能だ。さらに、お客様の要望から始めたのが、一般アパレル品の持ち込みユニフォーム加工だ。
持ち込みニーズの発見
ユニフォームの持つ機能性、審美性、象徴性という3つの機能のうち、お店や役割の個性表現である象徴性に注目したチームワークアパレル(TWA)。あるとき、お客様からの問い合わせによって、新しいニーズを発見した。それは、すでに保有している、ユニフォーム用ではないTシャツ、ポロシャツに、象徴性の加工をして欲しい、という要望だ。
お客様としては、着慣れたものや、サイズ感のわかるもの、信頼しているブランドの商品を使いたいという意図があるようだ。じつは、「他のお店で買ったTシャツに刺繍を入れて欲しい」という問い合わせは従来からあった。物販を主な収益源としていた当時のユニワークでは、自社で購入していない商品の加工は断っていたが、いま同様の要望を受けて改めて考えてみれば、エプロンのインナーや、腰巻エプロンの上に着用するトップスでは、機能性に対する要求は少ない。また、自社で取り扱っているTシャツやポロシャツを見ても、市場では一般衣料として販売されているものも多く、これらのアイテムには実質ユニフォームと一般衣料の垣根はなかった。象徴性を高める様々な加工ができるようになった今、ユニフォームのベースとなるアイテムは持ち込みも可能とし、加工だけで収益を得ることも出来なくはない。そこで、まずは地元の直販ルートで持ちこみ加工を受けることにしたところ、さっそくいくつもの持ち込み加工の依頼を得た。
AB3Cを見てみよう。Tシャツをユニフォームにしたいお店は、ユニフォームに特別な機能性は求めていない。それよりも、ブランドを伝えるための象徴性のほうが重要だ。そのため、Tシャツ自体は着慣れており、サイズ感が分かる一般衣料品を使いたい。しかし、これをユニフォームとして使うためには、ロゴマークを入れる、ブランドカラーを反映させるなどの象徴性のための加工が必要だ。さらに、ボールペンを差すためのポケットを追加する、などの簡単な機能性加工は喜ばれるだろう。
一般衣料のデニムパンツやジャケットもユニフォームに
さらに思考を進めると、加工のベースをユニフォームとして提供されている商品に限定する必要は無い。これまでの発想では、ユニフォームとしての機能を有するベースアイテムに、加工で個性を反映させようとしていたが、飲食店のユニフォームにおいては、機能性の要求は少なく、むしろ象徴性の要求の方が高いものがおおい。それならば、むしろ象徴性を伝えられる個性的な一般アパレル衣料品ベースにして、ポケットやボタンの追加など、ユニフォームとしての機能を補い、さらに象徴性を加える加工を施してはどうか。例えば、カフェのユニフォームとして、デニムのつなぎをベースとし、ユニフォームとして使いやすいようにボールペンやメモ用紙を入れるポケットを追加、さらにロゴマークの刺繍を施す。高級レストランのユニフォームとして、レストランのロゴマークと同じ色のテーラードジャケットに、さらにラペル(襟)やポケットの縁に、ロゴマークのサブカラーを使ったパイピング処理をする、などだ。これによって、ユニフォームの個性は、一般アパレル以上のものとなった。
AB3Cを見てみよう。自社のブランドをユニフォームで表現したい場合、ベースとなるアイテムそのものも自社のブランドにあった個性的なものを選びたい。そこで、一般アパレル品の中から自社の個性に合うものを選び、持ち込むことで、自社のブランドをより強く表現できる。さらに、ロゴマークやロゴカラーの反映よって、自社の個性をより強く表現できる。さらに、ユニフォーム加工で機能強化も可能だ。競合他社と比較して、ベースアイテムと、加工という2段階の優位性が生まれた。